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博士長期研究インターンシップ

背景と目的

   九州大学大学院数理学府は平成18年度から博士後期課程・機能数理学コースの学生に対して3ヶ月以上の研究インターンシップを開始し、これまでに80名が実習を無事終了しました。
   インターンシップとは、学生が研修生として企業の研究や実務を体験する制度のことで、工学部では学部3年生や修士1年生が夏休みを利用して2週間から1ヶ月の実習を行うのが普通です。一方、数学の学生は10年前までは企業インターンシップと無縁でしたが、メーカー、情報通信、金融界の数学出身者に対する需要の増大に伴い、今日では就職活動のための短期インターンシップまで含めると、数理学府の多くの学生がインターンシップを体験するようになりました。
   企業の研究所では、例えばシミュレーター(高度な計算ソフト)を用いて数理的な問題を解きますが、1回の計算に半日、1日かかることも珍しくありません。その計算結果が期待した性能を満たしていない場合は、パラメーターを変えて計算を繰り返します。計算効率の向上が研究開発期間の大幅な短縮につながるため、ブラ ックボックス化したシミュレーターの内部構造に踏み込むことのできる数学人材が求められています。自動車メーカーでは自動運転の制御のために、数学人材への期待が急速に高まっています。保険業界では、商品開発、収益管理といった従来の業務に加えて、保険事故に対応する支払準備金の予測とリスク評価をおこなうリスクマネジメントが重要な課題となっていて、統計や数学が不可欠になっています。
   このような社会的要請に応えるべく、機能数理学コースの学生は、これまで培った数学の普遍性と堅牢な論理的思考力に加えて、インタ ーンシップを通して実社会への適合性を獲得するための研鑽を積んでいます。さらに、実習生は実社会から数学を客観視することにより、数学および数学を学んだことの価値を認識し、それらを実習後の研究に生かすことが期待されています。

事前準備

   数学の得意な学生は、スポーツに例えれば、足の速い選手のようなものです。どのような競技でも、それは優位に働きます。しかし、数学だけでは不十分です。何が欠けているかを認識するために、企業から講師を招き、企業における数学の役割、実習の心構えを事前に講義して頂いています。また、企業ではチームで問題解決に当たるため、コミュニケーション力が要求されます。そのため、PythonやC言語等によるプログラミングに加えて、発表ソフト、表計算ソフト、ワープロソフトを使いこなさなければなりません。特に、プレゼンテーション力不足を度々指摘されています。工学や情報など他分野の人々に接し、数学の外の土俵でも説明できるスキルを身につける必要があります。

企業では、さまざまな分野の出身者が共同で問題解決に当たります。

実績

  これまでの受け入れ企業は次の通りです。学生の専門は統計、最適化、数値解析、計算機科学のみならず、代数、幾何、解析などの純粋数学の学生も多数参加しています。

NTTグループ、住友グループ、東芝グループ、日本製鉄グループ、日立グループ、パナソニックグループ、富士通グループ、三菱グループ、ING生命保険、宇部興産、環境テクノス、キャタラー、情報通信研究機構、ゼッタテクノロジー、DIC、テクノス、デンソー、日産、日新火災、日本IBN、ヒューマンテクノシステム、マツダ、三井造船、ローランド

令和元年度海外長期インターンシップ報告   朴炯基    栗原寛明
平成30年度海外長期インターンシップ報告   袁壄    軸丸芳揮
平成29年度海外長期インターンシップ報告   王イントウ  江田智尊    鴨田憲太朗
平成28年度海外長期インターンシップ報告   山口達也     工藤桃成

実習生の専門

   統計数学、数値解析、計算理論等の学生は専門性を生かした課題に取り組めます。代数の学生にとって暗号は絶好のテーマです。データ圧縮も専門を生かせるテーマです。画像認識、画像処理は数学の多くの学生が対応可能なテーマです。専門と異なるテーマに取り組む学生には、実習期間中に数理の専門家による相談の場を設けるなどの支援をおこなっています。その結果、共著論文や特許申請などの成果を上げた学生が何名もいます。さらに、実習を契機にいくつもの共同研究が始まりました。機能数理学の学位取得者の約半数が企業に就職し、14名がポスドクや助教の職についています。

実習生と実習指導者の感想

以下は実習生と企業の感想の代表的なものです。

  • 数学の世界では絶対に触れ合うことのない人々と交流し、また出会わないであろう研究分野に接し、視野が広がった。大きな財産になった。
  • 数学が世の中に直接役立つという実感をもてた。
  • 数式を抵抗なく理解できることは数学出身者の強みだと感じた。また、内容を噛み砕き相手に理解させる技術がなければ、企業では通用しないと感じた。
  • 部署の中で連帯感を持ちつつ仕事を任せられるという責任感をもつことは, 日頃なかなか意識できないことであり, 大変いい経験になった.
  • 企業の実験・データ解析を推し進めていく強靭さと組織力に感心した。
  • 専門外の問題であっても, その本質をとらえようとする姿勢には感心しました. また、数式や数値に対する野性的な直観力には驚かされました。
  • 理解力・認識力については申し分がなく、実習テーマへの対応が迅速・的確に完成できた。また、説明が大変分かりやすく、非常に良かった。
  • 数学という基礎力がこれからの先進的な技術開発でさらに必要となることを実感した。技術開発における数学の重要性を再認識した。

   これらの感想のほか、実習生の輝く瞳からも彼らの満足感と自信を読み取ることができます。高いモチベーションをもって実習に臨めば、よりよい成果が挙がるものと期待できます。また、平成20年度には統計数学の学生が、電話による1時間余りの英語インタビューをクリアーして、外資系保険会社で英語による半年間の実習を体験しました。さらに、ヨーロッパでは産業界に貢献できる数学教育の必要性が認識され始め、国際会議も開かれています。欧米の企業から受け入れの打診があります。このように、数学を取り巻く環境は確実に変化しています。その変化にいち早く適応しているのが九大数理学府なのです。九州大学リーディングプログラムで海外インターンシップを行って成功した学生が10人います。


川崎 英文
大学院数理学研究院・教授
博士インターンシップ担当