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研究院長メッセージ

九州大学における数学の教育研究の歴史は65年余りを数えます。その間、数学教室では、高等学校・大学教員をはじめ社会の多様な領域に多くの人材を輩出し、かつ純粋から応用にいたる幅広い数学分野で優れた研究実績をあげるなど、広く社会に貢献してまいりました。そうした伝統と実績のもと、平成6年度には大学院重点化のさきがけとして、数学の大学院である数理学研究科が誕生しました。平成12年度には本学の組織改革にともない、数理学研究科は教員が所属する研究組織である数理学研究院と教育組織である数理学府に分離・再編され現在の姿となりました。研究科発足以後、所属教員は大学院教育のみならず理学部数学科、低年次全学科目、工学部専門科目等にかかわる教育に従事し、本学における数学のあらゆる活動を全面的に担っています。

しかしながら、わが国の大学制度の根幹を揺るがすこととなった国立大学法人化をはじめ、人口減なども背後にした様々な国策の変更は、いまや私たちにも少なからぬ影響を及ぼしています。じっさい、教育研究活動を全面的に支える基盤的経費であった運営費交付金の考え方なども急激に変化するなか、本学でも運営全般の抜本的見直しが進んでいます。このような荒波が真正面から迫る現在、数理学研究院・数理学府においても、運営経費等の算段にとどまらない将来を見据えた改革をなくして、先輩諸氏のたゆまぬ努力の上に築かれた輝かしい伝統を継承し発展させることが困難になってまいりました。

こうした状況下、伝統に根ざした質の高い教育研究活動に立脚し、私たちはこれまでもいくつかの事業を進めてまいりました。たとえば、文部科学省21世紀COEプログラム「機能数理学の構築と展開」(平成15〜19年度)や文部科学省科学技術振興調整費による九州大学次世代研究スーパースター養成プログラムのひとつ「数学・数理科学における未解決問題挑戦プロジェクト」(平成18〜22年度)の推進などです。また平成19年4月には、研究科設置の際の理念に基づく上記COEプログラムのそれを発展させるべく「産業技術数理研究センター」が学内共同教育研究施設として設置されました。その具体的目的は、数学と他分野の連携研究と人材交流を推進することです。かかる目的を持った教育研究施設の設立は、いまや欧米では当然のものながら、わが国では初めてのことです。本学の数学の基礎的・先端的教育研究の要である数理学研究院・数理学府に沿いながらも、それは、数学の新しい活動拠点として歩んでゆくものと学内外から大いに期待されています。

これらに並行し、数理学府では平成18年度に発足した博士後期課程機能数理学コースの完成を目指すとともに、わが国の将来に亘る数学の高等教育の重要な一翼を担っていくための大学院改組計画を進めています。このコースでは、企業への長期インターンシップ(3ヶ月以上)が必須となっており、博士人材の育成の面からもその実現により、全国的にも高い注目を浴びています。また、平成19年度に採択された文部科学省大学院教育改革プログラム「産業技術が求める数学博士と新修士養成」の推進により、平成21年4月には、数理的要請を持つ多様な学科からの学生を受け入れ、高い数学的能力を備え広い視野をもった高度職業人の養成を目指し、修士課程に新しく MMAコース(Master of Mathematics Administration:技術版のMBAとして国際的認知が高いMOTの数学版)を設置いたしました。これらの取り組みにより、欧米諸国を見ればわが国でも今後ますます必要とされることが明らかな、民間企業等における数学を武器にもつ研究者や高度な数学能力をもった職業人の養成が加速されることでしょう。

平成21年4月、本学では、六本松地区が数理学研究院六本松分室と図書館の一部の機能を残し伊都キャンパスに全面移転いたしました。そして同年9月、数理学研究院全体も移転が完了し、研究科設立以来悲願であった六本松、工学部、理学部3分室の分断解消が実現いたしました。理学部数学科と産業技術数理研究センターも同時です。これにより数学教室は名実ともに一体化され、新しい歴史の一歩を刻み始めることになります。そしてその主役である若い力、すなわち、現在の、そしてまだ見ぬ数学科学生と数理学府院生諸君の活躍に対する期待は高まる一途です。

数理学研究院・数理学府を取り巻く厳しい風は当分収まる気配がありません。しかしながら、私たちはそれを前向きに受け止め、未来を拓く力を備えた魅力ある人材の育成を最大目標に掲げ、より活発で充実した教育研究体制を整えていく所存です。皆様には一層のご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

平成21年9月

若山正人
大学院数理学研究院長・数理学府長