分野別セミナー

アブストラクト：
遺伝子調節ネットワーク（Gene Regulatory Networks, GRNs）は、細胞内で遺伝子が互いにどのように転写を制御し合っているかを表現し、複雑な生命現象を理解する上で不可欠な枠組みである。その推定は、生物学的に重要であると同時に、数理統計・機械学習・因果推論といった分野が交差するきわめてチャレンジングな課題でもある。特に単一細胞トランスクリプトーム（Single-Cell Transcriptomic, SCT）データは、細胞ごとの遺伝子発現を観測できる点で革新的であるが、一方で測定ノイズやドロップアウトといった性質を持ち、推定の困難さが多く報告されている。本発表では、まずGRN推定の代表的アプローチを紹介する。さらに我々の取り組みとして、因果構造推定の枠組みと既存の生物学的知識を組み合わせたモジュール型パイプラインを紹介する。本パイプラインはSCTデータ特有のノイズに対処する設計を持ち、複数の因果構造推定手法から得られたネットワークを因果的な妥当性に基づいて評価することを可能にする。特に、生物学的文脈によって評価指標の選択が大きく結果を左右することを例示し、単一の精度指標ではなく、複数の指標を総合的に考慮した評価が重要であることを強調する。