全ゲノム時代の新たな医療の創出における統計科学の役割
開催期間
16:00 ~ 17:00
場所
講演者
概要
https://www.math.kyushu-u.ac.jp/wp-content/uploads/2025/09/井元_略歴20250401.pdf
アブストラクト:
令和元年6月より保険収載された遺伝子パネル検査によって、がん患者のがんゲノム情報を調べ本人へ医療として還元する「がんゲノム医療」が大きな期待と共に開始された。一方、遺伝子パネル検査での限界もその結果に基づき議論が深まり、より大域的な構造異常変異、ノンコーディング領域における転写制御に影響を及ぼす変異など、より広範な臨床的意義のあるゲノム変異の同定を可能とする全ゲノムシークエンス(WGS)解析が大きな期待を受けていた。平成30年(2018年)に英国 Genomics England は、当初目標の10万WGS解析を達成、今後5年間のプロジェクト目標の上方修正し100万WGS解析を宣言したことは象徴的である。令和元年12月厚生労働省は、「全ゲノム解析等実行計画(第1版)」を策定し、がん領域においては、全ゲノム情報により患者一人ひとりにおける治療精度を格段に向上させること、今は治療法のない患者に新たな医療を提供することを目標に掲げ、全ゲノム解析等をがん医療へ活用し、日本人のがん全ゲノムデータベースの構築、がんの本態解明、創薬等への産業利用を進めていくことが宣言された。
がん患者を対象に全ゲノム解析等実行計画を進めるために、令和3〜4年度AMED「革新的がん医療実用化研究事業」【領域1】がんの本態解明に関する研究として、患者還元体制班(A班3班)、患者還元領域班(B班6班)、解析班(C班1班)が組織され、A班、B班を合わせて令和3年度に 9,900症例(内新規の患者600症例)、令和4年度に2,000症例(新規の患者)の全ゲノム解析、RNAシークエンス解析、約300症例のロングリードWGS、数百症例のシングルセルやメチル化解析等が実施された。この研究事業は令和8年度まで継続が決定されている。これらのゲノム関連データ、臨床情報を演者が代表を務めるC班が受け取りデータベース化し、本事業のために構築された統一パイプラインを用いて全てのゲノムデータが解析されている。解析結果は、A班B班の研究者・医療者と共有され、当該患者への治療精度の向上や革新的治療法や診断技術の開発に向けた利活用に繋げていくための研究が推進されている。C班では、全ゲノムやマルチオミクスの先端的解析、患者還元のための結果のレポーティングシステム、解析を実行するオンプレミス・クラウド基盤の構築、臨床情報の自動収集システムなど多くの課題に取り組み、研究実施時点におけるベストプラクティスが構築されてきた。
令和7年度に発足が計画されている「全ゲノム解析等実行計画に係る事業実施組織(仮称)」における解析・データセンターの設置のために令和4〜8年度AMED革新がん【C領域】がん全ゲノム解析等におけるゲノム情報および臨床情報等の情報基盤に関する研究の研究代表者、および事業実施準備室の解析・DC運営チームリーダーとして演者が取り組んでいる日本の全ゲノムを基盤とする新たな医療の創出に向けた取り組みにおける統計科学・データサイエンスの役割とビジョンについて講演する。