細胞集団運動におけるソリトン現象の発見
開催期間
16:00 ~ 17:00
場所
講演者
概要
ソリトンとはぶつかっても互いに通りぬける不思議な性質をもつ波のことで、数学や物理学において非常に重要な現象・概念です。これまで細胞運動のレベルにおいてソリトン現象は観察されていませんでしたが、私のグループでは、多細胞運動としては世界で初めて、細胞性粘菌の突然変異株においてソリトン現象を観察しました(Kuwayama and Ishida, Scientific Reports, 3, Article number: 2272, 2013)。
細胞性粘菌は真核アメーバの単細胞生物ですが、餌がなくなると走化性運動により集合して子実体を形成します。独自に分離したある突然変異株は走化性運動ができず、子実体を形成しません。しかしながら、その細胞運動を観察したところ、子実体は形成しない代わりに、波紋様の塊を形成することを発見しました。この波紋様の塊は細胞が集まった細胞集団で、形を崩さずに一定の速度で運動し、ぶつかり合っても形を崩すことなく互いに通り抜けてしまうソリトンの性質を示すことを明らかにしました(Fig.1)。このソリトン様細胞運動の性質を調べると、①ソリトン様細胞集団の形成と維持は、走化性などによる外部からの化学信号によるものではなく、細胞間の接着によって形成・維持されている。②ソリトン様細胞集団の運動は、進行方向前部にある細胞を取り込みながら前進すると同時に、取り込んだ分に相当する細胞を後方に残していくことで、一定の大きさを保っている。つまりその形状は、動的平衡によって一定に維持されている。③ソリトン様細胞集団どうしが衝突すると、細胞のシャッフリングが起こるが、分離する際にそれぞれが衝突前と同様なソリトン様細胞集団を再形成する。これにより、あたかも一見通り抜けたような現象に見える。④大きさの違うソリトン様細胞集団が衝突すると分離後もそれぞれ大きな波と小さな波を形成した。これらは、波状の細胞集団の大きさや運動量は集団として記憶され、個々の細胞に依存していないことを意味しています。
本セミナーでは、細胞性粘菌の生物としての性質と細胞運動のソリトン現象の特徴についてお話します。
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