金子 昌信 教授、鍛冶 静雄 教授が令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰「科学技術賞」を受賞(4/16 金子教授コメント、授賞式写真追加)
数理学研究院 金子 昌信 教授、マス・フォア・インダストリ研究所 鍛冶 静雄 教授が令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰「科学技術賞」を受賞しました。
金子 昌信 教授の業績:多重ゼータ値の研究
受賞者のコメント:
人は誰もいろいろな偶然に導かれて人生を歩んでいるのだと思いますが,私が多重ゼータ値を研究するようになったのは幾つもの偶然が重なった結果です.風が吹けば桶屋が儲かる式に遡ると最初のきっかけは,大学一年生のときに杉浦光夫先生の解析の通年講義を聞いたことです.それがあったので,講義を聞いた翌年に出版された先生のご本「解析入門I」が手元にあった.1990年,助手でいた大阪大学から京都工芸繊維大学に移り,先生の本を参考にしつつ微積分を教え始めた頃,その本のある演習問題がヒントになって多重ベルヌーイ数というものを戯れに定義しました.95年初夏のある日のこと,非常勤先の京都大学教養部の教員控室のようなところで,たまたま手に取った雑誌に載っていたリーマンゼータ関数の値に関するある公式が,多重ベルヌーイ数について見つけていた公式と妙に似ているのに気が付きました.そこから類推を働かせて,当時Don Zagierが日本で行った何かの講演で聞き知っていた多重ゼータ値について数値実験をし,ある公式を予想しました.しかし調べてみるとすぐに,それは知られている結果だと分かりました.私はなーんだ,でお終いだったのですが,その顛末を,当初から多重ベルヌーイ数という訳の分からないものに興味を持って下さっていた数少ないお一人であった,故荒川恒男さんに書き送りました.私としては,こんなきれいな類似公式が成り立つのだから,多重ベルヌーイ数もまんざら捨てたものでもないかも知れない,くらいのことをお伝えしたかったのだと思いますが,荒川さんはそれに触発され,ひと月余りで,ある多重ゼータ関数についての新しい結果を見つけ,返信下さいました.お手紙の最後に「多重ゼータ値を考えるというのは大変役にたちました.少し,このあたり一緒に考えてみませんでしょうか?」とありました.これが私の多重ゼータ値研究こと始めです.杉浦先生の本,たまたま手に取った雑誌,Zagierさんの講演,また荒川さんの存在,これらがなければ自分の研究人生は多分全く違ったものになっていたと考えるととても不思議な気がします.今回このような栄誉に浴することになったことは,杉浦先生,Zagierさん,そして荒川さんのお蔭と深く感謝しています.またもちろん,それから多くの方々と一緒に研究を進めることが出来て,お世話になった方々も沢山おられます.思えば,修士の頃から数えると40年を越える研究生活で,興味の向くままに種々雑多なことをやってきたのでしたが,多重ゼータ値に関する論文が一番多いかも知れません.いちいちお名前を挙げることは出来ませんが,お世話になった全ての方に感謝いたします.有難うございました.

令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰「科学技術賞」及び「若手科学者賞」について
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/topics/view/2226