教員紹介
松江 要( マツエ カナメ ) / 教授
所属部局:部門
研究キーワード
力学系理論を一つの軸、具体的な方程式が生成する力学系の具体的な構造を数値計算により数学的厳密に証明する「計算機援用解析」(精度保証付き数値計算)をもう一つの軸として、解の構造を「数値計算を援用して証明する」手法、それに端を発する数学理論、数値計算法の構築に力を入れています。
下記の主な課題を中心として「数学・数理科学」の他に「材料科学・エネルギー科学に潜む問題」など様々な理論を俯瞰し、分野の枠を越えた多角的視野を手に入れる事を目指しています。
1. 幾何学的特異摂動(マルチスケールダイナミクス)と精度保証付き数値計算
多重時間スケールを伴う力学系の時間大域軌道の厳密計算法を構築しています。特に時間スケールパラメータが「充分小さい」だけでなく「具体的な範囲」にある場合も考慮し、様々なマルチスケール現象における数学理論の適用の出発点とする事を目指します。
2. 特異点論の視点から捉える有限時間特異性(爆発解、絶滅、急冷、canard)
有限時刻で微分方程式の解が記述できなくなる様々な特異性を精度保証付き数値計算で捉える方法を構築しています。解やその微分の発散を伴う「爆発」と「急冷」、有限時刻で解が動かなくなる「絶滅」、解が安定多様体から不安定多様体に向かって進んでいく「canard point」など、有限時刻で特異性を発現する現象は様々ですが、「特異点解消」を用いる事で包括的に捉える事ができます。ここに精度保証付き数値計算とトポロジーの基礎的な道具を組み合わせる事で、共通の手法で上記の現象を厳密に捉え、様々な現象の解析の出発点とする事を目指します。
3. 衝撃波
気体の運動方程式に代表される「保存則系」の解、とくに特殊な初期データを持ったリーマン問題の解の計算法を構築しています。出発点として典型的な解である不連続解:「衝撃波」と滑らかな解:「希薄波」、さらに不連続点でデルタ関数が乗っている「特異衝撃波」を力学系と爆発解の接合の視点で捉え、精度保証付き数値計算により厳密計算する方法を研究しています。上記2課題と同様、保存則系が記述する様々な現象の解析の出発点とする事を目指します。
4. 量子ウォーク
ランダムウォークの量子力学的対応物とされる「量子ウォーク」のダイナミクス(グラフ上のユニタリ作用素の族が生成する時間発展)、とくに量子ウォークが定義される集合の幾何構造との対応を考察しています。量子ウォークは格子やグラフの上で考察される事が一般的ですが、幾何学的側面の包括的理解のために単体複体上の量子ウォークを構築し、その上のダイナミクス、スペクトルなどの解析を通して、単体複体の幾何構造との対応を考察しています。
5. 燃焼ほか、諸科学分野に端を発する課題
物質の、特に気体の燃焼過程において発生する(予混合)層流・乱流火炎のダイナミクスを、物理的第一原理から導出された簡略化モデルを起点に解析しています。本課題では平面火炎・球状伝播火炎にフォーカスし、炎の幾何学的形状の違いによるダイナミクスの変化、形の安定性や乱流効果の関連性などを考察しています。他にも、結晶のような対称性・周期性が存在しないアモルファス構造を持つ物質(例:ガラス)の「形」、異なる性質を持つ媒質(例:熱拡散媒質)の特性を最適にするための配置など、材料科学に端を発する問題の数学的解決に取り組んでいます。