先輩の声

数学を志す
仲間に出会える

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理学部数学科 入学 理学部数学科4年 薄井 利基 さん

物理学を学ぶために微積分に触れたこと

─どのようなきっかけで数学に興味を持ちましたか

物理学を学ぶために微積分に触れたことがきっかけでした。小学生のころから私は星や宇宙についてとても興味がありました。色々な星座や天体の名前・現象を知っていくうちに、なぜそうなるのかという原理について知りたいと中学生の頃に思うようになりました。
原理を知るにはどうやら物理学をやればいいと、テレビや本などから見聞きしていたので、ミーハーだった私は物理学の中で最先端の分野であるイメージがあった量子力学の本を買いました。量子力学の本を読みましたが、中学生の私は全く理解できませんでした。正確に言えば、不確定性原理やトンネル効果といった現象を知ることは出来ましたが、何故それが起こるのかについてはまったく分かりませんでした。
なぜ分からないのかといえば、書いてある数式がまったく理解できないのが原因なのは明らかでした。数式を理解しようと頑張ってみると、数式の中に多く登場している微分と積分というものがまったく何なのか分かってないということが浮き彫りになってきました。
そんなわけで、微分と積分を理解するために微積分の参考書を買って、読んだのが数学に興味を持ったきっかけです。特に積分との出会いには衝撃を受けました。当時は中学生で、図形の面積というと、三角形か平行四辺形、あるいは円の面積の求め方ぐらいしか知りませんでした。しかし積分を使えば、色々な図形の面積を計算することが出来るということを理解したときの驚きは今でも忘れられません。
数学は自分が思ってた以上に自由で広大で面白い世界なのかもしれないとこれを機に思い、ここから数学について色々と興味を持ちました。

大学数学を多くを学び、数学を志す仲間に出会いたい

─理学部数学科へ編入学した理由を教えてください

私は力学系と呼ばれる分野に興味があり、九大数理には辻井先生や石井先生といった力学系の偉大な研究者が在籍しています。力学系について知りたい私にとって、これ以上の場所はないと思い、理学部数学科に編入することにしました。
理学部数学科に編入した大きな理由は、大学数学をすでに勉強していてより多くを学びたいと思っていたからと、数学を志す仲間に出会いたかったからです。

私は高専を卒業して理学部数学科に編入しました。中学生の時点で数学に興味があったので、中学卒業後に入学した高専でも数学が得意な友達と話をしたり、本やネットの解説記事などを読んでいました。高専2年生のとき、友達に「数学の先生に可換環論について教えてもらおうよ」と誘われました。可換環論は数学科で習うような高度な分野で、普通の高校教師に教えてもらうのは難しいかもしれませんが、幸運なことに、高専の先生は基本的に研究者なこともあり、私と友達の依頼を快く受けてくれました。本当に感謝してます。
実際に、先生から可換環論について教えてもらったわけですが、ただ一方的に話を聞くのではなく、セミナー形式で可換環論について学びました。つまり、可換環論に関する教科書を1冊決めて、決めた本を私が事前に読んで理解した内容、あるいは理解できなかった内容を、黒板を使いながら先生に説明するという形で学びました。
はじめはかなり大変でしたが、セミナー形式で学んだことにより、数学に対する力はかなりつきました。そのおかげで、解析学や位相空間論といった、大学で学ぶような数学の他の分野を独学することもできて、大学で学ぶ数学のイメージを掴むことが出来ました。
セミナーや独学を通じて、他の学問と比べても、大学で学ぶ数学が自分には合っているなと感じたので、高専4年生の頃には数学科に編入したいと考えていました。

数学を志す仲間に出会いたかったからについても話します。セミナーや独学を通じて、大学で数学を学びたいと思ったわけですが、一方で、別に大学に行かなくてもいいんじゃないかとも考えていました。というのも、独学すればいいわけです。数学書を買って、開いて、読めば勉強はできます。大学に行く必要性はありません。わざわざ学費を払ってまで行かなくてもいいんじゃないかと考えられます。
しかし、私は編入学を望みました。それは仲間がいるからです。勉強したことで盛り上がれる仲間がいないと、勉強は続きません。まさしく、大学には数学を勉強する仲間がたくさんいます。同級生はもちろんのこと、先輩や後輩、さらには先生方だって、数学を勉強する仲間です。仲間と勉強して盛り上がる。これは独学にはない喜びです。そして、これこそが勉強したことを自分のものにする近道だと思います。

感覚や直感が通用しない形而上の世界を探求

─理学部数学科で学ぶ数学について教えてください

大学で学ぶ数学では、私達の感覚や直感が通用しない形而上の世界を探求していきます。例えば、数学の分野のひとつである幾何学や線形代数では、日常にあるような2次元や3次元の世界だけでなく、4次元や5次元、さらには無限次元の世界について学んでいきます。当然、3次元よりも高次の世界を直接見たり、感じたりすることは出来ません。そのような常軌を逸したものを調べるための武器が論理です。
大学における数学では、感覚や直感が通用しない世界を論理を駆使して、どうやって歩いていくかを学びます。
また、統計学や情報の分野では、こうした日常では触れることのできない世界を実世界にどうやって応用するのかについても学びます。

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自由な発想を元にした概念とそこから得られる驚くような結果

─数学を学んで面白いことや大変なことを教えてください

数学を学んでいると、過去の数学者の発想の豊かさと鋭い観察力に驚かされます。例えば、図形を回転させるという操作と整数はどちらも「群」というものとして扱うことが出来ます。つまり、「操作」という一見すると数学とは程遠いものも数学では扱うことができます。そして、色々なものを扱うだけでなく、例えば群を使えば5次方程式の解の(代数的な)公式がない理由を説明することができます。
このように、とても豊かで、自由な発想を元に出現した概念を知り、そこから驚くような結果が得られることが分かるのは数学を学ぶ醍醐味だと思います。
一方で、数学は特に大学で習うものは、抽象度が高いです。最初に出会う壁として数列や関数の極限を定義するための「ε-δ論法」は有名です(ご存じない方は一度調べてみてください)。そのため、はじめて出会う概念を頭の中でイメージすることすらできないことも少なくないです。
この抽象度の高い数学の世界を照らして前に進むための道具こそが論理ですが、最初のうちは論理の使い方もままならないでしょう。
しかし、数学を根気強く学んでいくことで、論理の使い方が分かるようになり、数学の世界を楽しく散策できるようになると思います。

複数の分野を跨ぐような数学の定理を証明する

─これから叶えたい夢・目標を教えてください

私が興味あるのは力学系の分野ですが、それだけにとどまらず、関数解析やホモロジー代数など数学の様々な分野についても勉強をしています。この数学に対する広い知的好奇心を生かして、複数の分野を跨ぐような数学の定理を証明することができたらいいと思ってます。
また、高専からの編入学者という、数学以外の専攻も経験した身を生かして、数学を専攻していない方々に、大学で学ぶような高度な数学の内容や魅力を伝えられるような活動ができたらいいなと考えています。

数学の幅広い分野が学べる環境

─九大数理の良いところを教えてください

九大数理の良いところは、たくさんの研究者の方が在籍していることだと思います。興味のある数学の分野が固まっていないけど、数学を学びたい方にとっては、様々な分野に関する研究者の方が在籍している九大数理はとてもいい候補の一つになると思います。すでに興味のある分野が固まっている方でも、様々な分野の知見を得ることができます。
また、数理談話会をはじめとした、外部の方の講演が多いことも魅力のひとつです。数学では予想外の分野を越えた繋がりが発見されることがあり、それが重要な発見であることも少なくないです。そのような発見をするには、様々な分野について知っておくことが重要だと思います。九大数理は数学の幅広い分野を学ぶという観点ではとても良い環境だと思います。

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後輩へのメッセージ

編入学することに不安を覚える方は多いと思います。「勉強について行けるだろうか」「友達はできるのだろうか」など、編入学に関する情報は普通の大学入学に比べて圧倒的に少ないので、そう思うのも無理はありません。私も編入試験前はもちろんのこと、合格が決まってから実際に大学に通うまでの間もずっと不安でした。
しかし、いざ大学に通い始めるとその不安は杞憂であることが分かりました。勉強については編入生に対する特別授業があります。その授業では微積分、線形代数、位相空間という数学を学んでいくうえで教養と呼べるような重要な分野を学ぶことが出来ます。また、編入直後の3年生の授業では実際にその3つの分野を使うものがほとんどです。なので、線形代数や位相空間について習ったけど、実際に何に使うのかがイメージ出来ない、ということがなく、むしろ普通に大学入学した人よりもモチベーションの高い状態でその3つの分野を学べると思います。
大学内での交友関係についても、そこまで心配する必要はないと思いました。まず、編入生同士は編入試験の面接控室などで顔を一度見合わせていますし、それぞれが仲良くなれるかどうか不安に思っているのも相まって、すぐに仲良くなることが出来ると思います。内部生についても、演習の時間などで問題や授業について相談するなど、積極的に関わろうとすれば自然と仲良くなれると思います。さらに編入直後の3年生では九重研修と呼ばれるイベントもあります。
理学部数学科は数学の幅広い分野に携わる多くの研究者の方々が在籍しています。編入生に対するサポートも手厚く、のびのびと数学を学ぶことが出来る場所です。そんな理学部数学科への編入を私は、大学で数学を学ぶことに興味がある人に対して自信をもって勧めます。

※掲載されている内容は2023年取材時のものです

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わたしが九大数理を選んだ理由